memo

ゲームと好きキャラの話がほとんどだよ

十代な釈夜さんのSS

まだママになってない頃の釈夜さんだよー。

意外と真面目な雰囲気だよー。

 

 

 

 

 

一方的な密談はやめて欲しいと思った

 

  

弓を構え、矢を放つ。
肉に刺さる音が聞こえ、獲物を仕留めた手応えを感じる。
狩りの途中で騒ぎ立てるのは、獲物への礼儀知らずだ。
鬼の力を使えば、手づかみで狩りをするのは容易いけれど、わざわざ弓を使うのはこの森への敬意なのだと思う。

 

「釈夜ちゃーん、狩りうまいなー。ワシのぶんもついでに獲ってくれぬかのおー」
集中が解けた途端、後方から間の抜けた声が聞こえ、イラっとする。
「やっかましいババア!狩りの途中で話しかけんな!」
「わあ怖いのじゃ。育ての親にそんな口を聞くとは反抗期かー」

 

間延びした話し口調で、更に被害者的なツラとポーズまでしてくるから、益々イライラが募る。
こんな調子で常時ふざけた女だが現族長で、母親が25で若死にした釈夜にとっては、5歳からの育ての親で母親の姉だ。
幼少期の寂しさは、この妙な明るさに助けられた面もなくはない。

 

「狩りをする気がないなら、なんで妾についてきたよ族長殿。そもそもにアンタ狩りの当番じゃねェだろ…」
仕留めた島ウサギの耳を掴み、籠へと入れる。
籠の重さから、この程度の獲物量があれば、今日の自分のノルマは達成してるだろうと考えた。

 

「いや、なに、たまには我が娘と密談するのも良かろうと思ってな」
〝密談〟で話の内容を察した釈夜は、返答の代わりに思い切りイヤな顔をしてみせる。
どうせ族長殿は、そんなことでは怯みもしないだろうけど。

 

「ワシのスペシャブレンドティーをご用意してやったぞ。狩りは終わったのじゃろう?まあまあそこらへんにでも座れ」
森を自分のリビングかのように言い、草の積もった木の根元へ腰を先に降ろされる。
座られてしまうと無視もできないので、釈夜も仕方なく適当な近場へ座り込んだ。

 

「アンタがしたいのは、次の次の族長の話だろ?そんな先のことはわからねェよ。それに妾が族長向きとはまったく思えないね」
現族長の年齢は38だ。
鬼の平均寿命から考えても、この2人目の母親とも別れなくてはならない時が、数年以内には来るんだろう。
「次の族長は、すでに立候補者がいるからな。あやつは集落の同年代をよくまとめてるし、心配せぬでも票が集まるじゃろ」

 

東鬼島の部族代表である族長は、前族長が死去した後、副族長の仕切りで選挙が行われ、新しい副族長と共に任命される。
とは言っても、だいたいは死去しそうな年齢になる頃に候補者は自薦他薦ですでに決まっていて、選挙と言っても儀式的なものに過ぎない。

 

「だからワシが気にするのは、その次の族長候補じゃ。おぬしらの年代だと、族長になってほしいで賞をダントツの票数で釈夜が受賞しておるぞ!ダチ公に人気じゃな!ヒューヒュー」
鳴りもさせない口笛のモノマネを変顔で披露され、釈夜は頭を抱える。
自分はまだ16歳で鬼として先日成人したばかりなのに、こんな乗り気でもない役職を今から押し付けられるのは面倒だし、族長になる気がそもそもにない。

 

「だから妾は、梵澄(ほすみ)を推薦するってんだろ。アイツは頭も回るし同年代の信頼だって厚い、腕っ節だって悪くねェ」
出来のいい幼馴染の名を挙げ、なんとかこの会話を終わらせようと試みる。
「その梵澄が、私は釈夜の副族長をやりたいわ♡って言っておる。腕っ節も同年代で一番は釈夜じゃろうが」
試みた言葉は墓穴を掘っただけで、思えばこの母に論議で勝ったことなど一度もないのだ。

 

「族長…向いてねェってのよ」
「それを説得するのも現族長の仕事よ」

 

お茶を手渡され、ぐいと飲み干す。
ハーブの風味が喉を通り、落ち着く香りで肩の強張りが解ける。

 

「それじゃあ話題を変えるか。鬼の平均寿命は知っておるか?」
「40歳、だろ?」
「そうじゃ、40歳。他の島の鬼はどうかわからぬが、東鬼島では各々の寿命にブレがある。おぬしの母のように25で亡くなってしまうものもいれば、48まで生きた鬼もいる。48歳、鬼にしたらなかなかのご長寿だろう」

 

寿命。
不思議なものだ。
この怪我も病気も知らない鋼の肉体も、寿命が近づくと急に弱り、あっという間に命が終わる。
強靭な肉体と力を得た代償に、この寿命というものがあるのだろうか。
確かに現族長の言う通り、寿命にも個人差がある。
自分の母のように平均よりもずっと早く寿命が来るものもいれば、50年近く生きたものもいる。
戦いで多少の怪我を負ってもなんて事はないが、寿命だけには抗えない。
鬼にとっては、己の寿命は死が急に迫る初めての病のようだ。

 

「…東鬼島に、男の鬼の子が生まれたことがあるらしいぞ」
「は?…嘘だろ」

 

鬼族に、女だけじゃなく、男もいるのは知っている。
だが東鬼島には、女の鬼だけだ。
理由は知らないが、東鬼島の鬼からは、鬼の娘しか生まれない。
鬼以外の種族と契っても、他国で生まれ暮らしても、東鬼島の血を引く鬼の女からは娘しか生まれない。
実質は夫となる種族と鬼との、混血な気もする。
だが見た目が鬼で、鬼の力を持って生まれたなら、その種族としての扱いはやはり鬼だろう。

 

「例外なく、じゃ…なかったのかよ?」
例外なく、鬼の娘が生まれると聞いていた。
だから婿殿は釈夜の好みで選ぶのじゃ!どうせなら優しいイケメンにしとけぇーなどとくだらない茶化しをして来たのは、族長自身ではないか。

「この島がすでに原則から外れておるとすれば、例外などあやしきものよ」
「そんな問答面白くもねェ」
話の腰が折れたと理解し、立ち上がる。
「帰るぞ。アンタは一応族長なんだから、ブラブラしてないで集落にいろ」
「ええー。ワシもたまには森でブラブラしたいのじゃー」
「妾もだよ!だから族長になるなんざ面倒でイヤなんだ!」

 

向こうのペースにハマらないように、振り返らないで歩くことにした。
「族長には進める力と保持する力の両方が要るよ。ワシには釈夜はそれを持っておるように感じるぞ」
「…ほめても、族長にはならねェよ」
「保持するだけではつまらぬ、だから進む。けれど進む道を間違えれば、部族は滅ぶ」
「そうだな」
つまらぬ、だから進む。
族長にはその進む自由がないように、釈夜には思えた。

 

「その進む道を間違えぬよう、族長が皆を導く。抗うとしても、分別が必要じゃからな」
「母よ。なにが、言いたい?」
「ワシは…おぬしの本当の母、妹のことが大切で、大好きだったよ。あと10年は一緒に居られると思ってたのに、突然失ったときは、とても悲しかった。鬼の寿命に抗える法があれば、縋りたいとさえ強く思った」

 

息がつまるような悲痛な告白に、釈夜は思わず振り返る。

 

「だがそれは、ならぬことじゃ。寿命は、鬼の最初で最後に得る病だ。抗ってはならぬ」

 

珍しく真剣な言葉とまっすぐな視線に、息を飲む。

 

「あれれー、そうじゃー、ワシったらドジなのー。鬼の男の子が生まれたかもって話は、代々の族長だけしか知らないスーパー秘密事項だったのじゃー!」
真剣な顔から一転、わざとらしく手を叩き、棒読みのセリフでそんなことを言う。
釈夜はこの一連の雑談らしきものすら、母の術中にまんまとハマっていたのだと、今頃気づいた。
「…ふっざけやがって!妾はなんも聞いてねーよ!マジ今の話なんも聞いてねェし!」
「だめぇ。ワシのマジ話は返却不可なのじゃ☆」
ペロリと舌を出し、族長は集落方面へ走り出した。
38歳のテヘペロなんか、誰も得しない。

 

「テメェ!待ちやがれ!今のぜーんぶ聞いてねーし!族長にもならねェからな!」
38歳だけど鬼の本気の猛ダッシュは、すごく早かった。
釈夜は馬鹿げた追いかけっこをやめ、腰紐の下に手を伸ばすが、森は火気厳禁でタバコも火打ち石も置いて来たことを思い出す。
足を拳で叩き、冷静になるよう息を吐く。

 

「くそ。ならねェよ…族長になんか」

 

東鬼島に生まれたかもしれない男の子のこと、おそらく本当に族長のみに伝わる話なんだろう。
そこにあるかもしれないいわくを、少ない材料で想像しても意味がない。
釈夜は考えるのをやめて、籠を担ぎ直すと集落へ戻る道を歩き始める。
森が少しだけ、ひんやりとした気がした。